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簡素な食品パッケージ──ナフサ不足、食品包装、医療物資と医薬品の現状

───ポテチの色が消えた日

2026年5月12日、カルビーが主力商品14品目のパッケージを白と黒の2色印刷に切り替えると公式に発表しました [1:calbee.co.jp]。ポテトチップスのうすしお味、コンソメパンチ、かっぱえびせん、フルグラなど——あの見慣れたカラフルなデザインが、5月25日出荷分から順次消えていきます [1:calbee.co.jp]。伊藤ハムも同様の対応を検討していると報じられています [33:itmedia.co.jp]。

ちょっと覚えておいてください。これは「値上げしたくないから色を減らした」という話ではありません。

カラーインクが「高くて買えない」のではなく、そもそも物理的に入ってこない。カルビーは「中東情勢の緊迫化に伴う一部原材料の調達不安定化を受け、商品の安定供給を最優先とする観点から、当面の対応策として一部商品のパッケージ仕様を見直します」と説明しています [1:calbee.co.jp]。カルビー自身は5月15日の赤沢経済産業大臣会見で明かされたヒアリング内容によれば、「現時点では現行パッケージのままでも供給に大きな支障はないものの、中長期的な供給確保や馬鈴薯の食品ロス防止の観点から、予防的に変更した」と説明しています [2:note.com]。つまり「いま困っている」ではなく「このままだと困る」——予防的判断です。

佐藤啓官房副長官も同日の会見で、印刷インク不足の実態把握のため関係企業と意思疎通すると表明しました [3:nikkei.com]。政府がポテチの包装の色について動く。それほどの話なのです。

じゃあ、何が起きているのか。

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🧪 ナフサとは何か——すべての始まりの液体

ナフサという言葉を聞いてすぐに何のことか答えられる人は、たぶんそんなに多くないですよね。でも、あなたの身の回りにあるプラスチック、ペットボトル、食品トレー、ごみ袋、洗剤の容器、注射器、点滴バッグ——そのほぼすべての出発点がナフサです。

ナフサは原油を精製する過程で得られる軽質留分で、見た目はガソリンに似た透明な液体です。これを約850℃の高温で分解すると、エチレン、プロピレン、ブタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレンといった「基礎化学品」が同時に生まれます [4:enecho.meti.go.jp]。

ここが重要なポイントです——同時に。石油化学の最大の特徴は「連産品」構造にあります。ナフサ分解炉を1基止めると、エチレンもプロピレンもBTX(ベンゼン・トルエン・キシレン)も全部止まる。一工程の変化が、下流の複数製品ライン全体を一斉に揺るがす仕組みになっています [5:spectee.co.jp]。(※[5]はサプライチェーンリスク管理サービスを販売するSpectee社のレポート。危機の可視化を事業とする立場からの分析であり、事実記述部分は経産省資料 [6] やNRI [16] で裏取りしている。)

エチレンからはポリエチレン(ごみ袋、食品包装フィルム)、プロピレンからはポリプロピレン(食品容器、自動車部品、医療器具)、そしてBTXからは塗料、インク溶剤、合成繊維と、あらゆる方向に枝分かれしていきます [4:enecho.meti.go.jp]。

では、日本はそのナフサをどこから手に入れているのか。

経済産業省の資料によれば、国内ナフサの総需要のうち、国産(国内の原油精製由来)が約4割、中東からの輸入が約4割超、中東外からの輸入が約2割弱です [6:meti.go.jp]。ところが、国産ナフサの原料となる原油も9割を中東に依存しているため、実質的な中東依存度は約8割に達します [7:tokyo-np.co.jp]。

そしてナフサは揮発性が高く危険なため、国内でナフサの形での備蓄はされていません [7:tokyo-np.co.jp]。

この構造を頭に入れた上で、2026年2月末に何が起きたかを見てみましょう。

🌊 ホルムズ海峡封鎖とナフサ供給の断絶

2026年2月28日、米国とイスラエルによるイランへの軍事攻撃を契機に、ホルムズ海峡は事実上の封鎖状態に陥りました [5:spectee.co.jp]。平常時1日約100隻が通航していた海峡は一時わずか数隻にまで激減し、商船三井・日本郵船・川崎汽船の邦船大手3社はいずれも通航を停止しました [5:spectee.co.jp]。

ナフサ市況は直撃を受けました。2026年3月のアジアスポット価格は、わずか2週間で1トンあたり600ドル台後半から1,100ドル前後へと急騰 [8:thebrief.info]。国産ナフサ価格は6月前半入着分で122,058円/KLに達し、前月比+39%という前例のない水準を記録しています [8:thebrief.info]。

影響は「高くなった」だけにとどまりませんでした。

国内のエチレン生産設備全12基のうち、4月初旬時点で6基が減産体制に入り、フル稼働を維持できているのはわずか3基という状況に陥りました [9:plastic-pallet.co.jp]。三菱ケミカル旭化成エチレン(AMEC、水島コンビナート)は4月11日からナフサ調達難を受けて稼働を縮小しています [9:plastic-pallet.co.jp]。2026年2月のエチレン稼働率は75.7%で、業界が好不況の目安とする90%を43カ月連続で下回っている状態です [10:biz-journal.jp]。

4月8日に米国とイランは停戦に合意しましたが、停戦は「米軍とイランの間の交戦停止」に過ぎず、海峡の商業通航の再開とは別問題です [11:global-scm.com]。イランは「米国の海上封鎖が続く限り海峡封鎖も続ける」と明言しており、通航数は停戦後も1日数隻という極端な低水準が続いています [11:global-scm.com]。

ちなみにこの停戦協議も、4月11~12日に行われた両国の協議は不調に終わったとの報道が出ており、予断を許さない状況です [5:spectee.co.jp]。

この「原料が物理的に来ない」という事態が、私たちの食卓と病院に同時に波及しています。

🍱 食品包装への波及——「簡素化」の正体

冒頭のカルビーの話に戻りましょう。

帝国データバンクによると、2026年5月の飲食料品値上げは合計70品目ですが、注目すべきはその理由です。「包装・資材」を値上げ要因に挙げた企業が全体の約7割に達し、集計開始以来で最も高い比率になりました [12:prtimes.jp]。従来の「原材料費」「人件費」に加え、ナフサ不足を起点とした包装資材コストの上昇が、新たな食品値上げの構造要因として定着しつつあるのです [12:prtimes.jp]。

旭化成は3月31日に、汎用樹脂であるポリエチレン全製品(サンテック-LD、サンテック-HD、サンテック-EVA、クレオレックス、サンファイン)について、4月1日出荷分から1kgあたり120円以上の値上げを発表しました [13:gomutimes.co.jp]。中東情勢の悪化に伴う原油価格の急騰やナフサ価格の大幅な上昇が理由です [13:gomutimes.co.jp]。日本ポリエチレンやプライムポリマー(三井化学・出光興産の共同出資)も同様に値上げを決めています [34:online.logi-biz.com]。

より具体的な影響として報じられているのは以下のような事例です。

生団連(国民生活産業・消費者団体連合会)が4月27日に発表した緊急調査では、食品企業の4割がすでにナフサ不足の打撃を受けており、プラスチック容器不足で5月上旬からプリンの全国販売休止を検討する企業が出ていることが明らかになりました [31:nikkei.com]。ミツカンも5月1日、一部納豆商品の販売休止を発表しています [32:jiji.com]。なお[31]は日経の有料会員限定記事であり、スニペットの範囲で確認しています。

ANNニュース(2026年4月30日)は、岐阜県で81年続く老舗豆腐店「弓削銘水堂」の弓削智裕代表取締役への取材で、豆腐パックメーカーから1パックあたり1.6円の値上げ通知が届き、年間約300万円の負担増となることを報じました [14:tv-asahi.co.jp]。弓削氏は「このままいくとゴールデンウィーク明けにはなくなるパック。ある種のパックの豆腐は、スーパーから消える」と語っています [14:tv-asahi.co.jp]。同報道では生団連(国民生活産業・消費者団体連合会)の川本聡事務局長が「印字ができなくなることによって、その商品の出荷ができなくなる可能性があるという話はあった」とコメントし、食品表示法上の義務が果たせなくなるリスクにも触れています [14:tv-asahi.co.jp]。

さらに深刻なのは、印刷インクの問題です。食品パッケージに使われるグラビアインキの原料にもナフサ由来の溶剤・樹脂が使われており、カラーインクの入手自体が困難になっています [33:itmedia.co.jp]。カルビーでは7月に予定されていた「ポテトチップス サワークリーム風味」の新発売も中止となりました [10:biz-journal.jp]。

ところが——ここは冷静に見ておく必要があります。カルビーの判断は「予防的」なものでした [2:note.com]。「いまインクが完全に枯渇している」わけではなく、「中長期的な供給確保のために色数を減らした」のです。この区別は大事です。パニックと事実を分けましょう。

とはいえ、食品表示(成分表示・アレルギー表示等)の印刷ができなければ法的に出荷不可能になるため、中小食品メーカーにとっては実存的なリスクであることも事実です [15:h-bid.jp]。

🏥 医療物資への衝撃——手袋・輸液バッグ・透析回路

食品包装の話なら「見た目が変わる」で済む面もあります。でも医療の話はそうはいきません。

NRI(野村総合研究所)の木内登英氏が2026年4月3日付のコラムで整理しているとおり、ナフサから作られるエチレンとプロピレンは医療品の製造に多く使われています [16:nri.com]。エチレンからは点滴バッグやチューブなど柔らかい素材の医療品、プロピレンからは硬い素材の注射器などが作られます [16:nri.com]。

厚生労働省と経済産業省は3月31日に、中東情勢の影響を受ける医薬品や医療機器などの安定確保に向けて対策本部を設置しました [16:nri.com]。高市首相は同日の関係閣僚会議で、輸血パック、透析回路、注射器、医療用手袋などを挙げて「供給に万が一にも支障があってはならない」と述べました [16:nri.com]。

政府による企業へのヒアリングでは、人工透析に使うチューブなど「透析回路」、手術中に使用する廃液容器などの緊急性の高い医療品の一部が、4月半ばから8月ごろにかけて供給不足に陥る可能性があるとされています [16:nri.com]。

弁護士JPニュース(2026年5月11日)は、神奈川県保険医協会が歯科会員を対象に実施した緊急アンケートの中間集計を報じています [17:ben54.jp]。医療用手袋について、メーカーなどからの供給状況を「入荷時期未定」と答えた歯科医院が84.3%にのぼり、29.5%が在庫を「枯渇している」と回答しました [17:ben54.jp]。一部の歯科医からは「数週間で医療物資枯渇で休業する可能性がある」との声が寄せられています [17:ben54.jp]。

政府は備蓄している医療用手袋約4億9,000万枚のうち5,000万枚を放出する方針で、上野賢一郎厚労相は4月23日に配送体制を整え追加放出の考えも示しました [17:ben54.jp]。しかし協会側は「配送が始まるのは早くても5月下旬で、どのように供給されるのかも不透明」と指摘しています [17:ben54.jp]。さらに、今年2月以降の中東情勢悪化による物価高は昨年12月に決まった診療報酬改定率に反映されていないとして、「小規模医療機関へ更に目を配り、流通の目詰まり解消や適切な情報発信」を政府に要請しています [17:ben54.jp]。

ここで注目すべき動きがあります。国内の血液透析装置で50%のシェアを持つ最大手の日機装は3月30日、医療機関向けに供給状況を公表しました [19:alterna.co.jp]。「現時点において生産・供給に支障は生じておらず、通常通りの供給体制を維持している」と説明した上で、今後の情勢次第では影響が生じる可能性にも言及し、医療機関に対して「通常使用量に基づく発注」を呼びかけました [19:alterna.co.jp]。

これは賢明な対応です。COVID-19の流行初期にも、将来不安から一部施設で過剰発注が起こり、それ自体が供給逼迫を招くという現象が見られました [19:alterna.co.jp]。パニック買いは供給危機を自己実現させるのです。

そして木内氏が指摘する本質的な問題があります。ナフサ不足時に価格メカニズムに任せていると、医療品が適切に供給されない恐れがある、と [16:nri.com]。注射器や点滴バッグは代替が効かず再利用が難しいため、不足局面で価格が上昇しやすい。ところが医療品の価格が大幅に上がっても、それは診療報酬には直ちに反映されず、医療機関の経営を圧迫します [16:nri.com]。経営圧迫が深刻化すれば、高度医療の提供体制を維持することが困難になりかねません [16:nri.com]。

市場メカニズムの合理性が、医療の現場では「患者の命」を左右しうる制約になる——この構造は記憶しておく価値があります。

💊 医薬品サプライチェーンの脆弱性——原薬の中国・インド依存

医療物資(手袋・容器・チューブ)の話だけでも十分に深刻ですが、もう一層奥の問題があります。薬そのものの原料——「原薬(API: Active Pharmaceutical Ingredient)」の調達構造です。

米国薬局方(USP)の分析によれば、医薬品の有効成分であるAPIの製造は地理的に高度に集中しています。インドが必須APIの29%、非必須APIの38%を製造しており、最大の供給国です [20:qualitymatters.usp.org]。EUが必須APIの18%、米国も必須APIの18%を担っていますが、注目すべきは中国のシェアが前年の8%から二桁台に成長したことです [20:qualitymatters.usp.org]。

しかもこれは「製造」の話であって、原料はさらに上流に遡ります。USPの調査によれば、中国は全APIの約37%について、少なくとも一つの主要出発原料の唯一の供給国でした [21:cen.acs.org]。インドが世界最大のAPI製造国であっても、その製造に必要な原材料の多くは中国から来ている、という構造です [21:cen.acs.org]。

日本に目を向けると、事態はより深刻です。

日本ジェネリック製薬協会の情報によれば、国内で使用される注射用抗菌薬の85.8%を占めるβ-ラクタム系抗菌薬の原材料と原薬は、 中国からの輸入品がほぼ100% を占めます [22:jga.gr.jp]。2019年には抗菌薬セファゾリンの供給不足が実際に発生しました。外交問題ではなく、中国国内の環境規制強化で原材料メーカーが操業停止になったことが原因で、日本国内でも一時的に手術を遅らせるケースがありました [22:jga.gr.jp]。

JAPTA(日本薬業貿易協会)会長の藤川伊知郎氏が厚労省の「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」第6回(2023年12月4日)に提出した資料によれば、「粗製品または最終品を輸入し国内で精製・加工する原薬」の購入金額ベースで 中国が63.0% 、インドが20.9%を占めます [23:mhlw.go.jp]。「輸入してそのまま使用する原薬」でも中国は購入金額ベースで25.3%と最大です [23:mhlw.go.jp]。しかも韓国・欧州の原薬もその上流工程は中国やインドから調達しているケースが多いため、サプライチェーンとしての実質的な中国・インド依存度はさらに高いと指摘されています [23:mhlw.go.jp]。元データは「令和4年度 後発医薬品使用促進ロードマップに関する調査報告書(令和5年3月)」です [23:mhlw.go.jp]。

そしてここにナフサ問題が交差します。原薬そのものは化学合成で作られますが、それを入れる容器——バイアル瓶のキャップ、PTPシート(お薬を1錠ずつ押し出すあの包装)、軟膏チューブ——これらはすべてナフサ由来の樹脂製品です。医療現場への取材では、注射器やシリンジ、手袋、点滴バッグなどナフサ由来の医療物資が軒並み値上げされ、100枚入り450円だった使い捨て手袋が1,000円超で販売されているケースも報じられています [18:ben54.jp]。「容器がない」問題は調剤薬局から病院まで広がっています。

薬の中身が作れても、入れ物がなければ届けられない。サプライチェーンの脆弱性は、最も弱い環で決まるのです。

日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会は2023年9月に「5つの提言」を発表しており、原薬の品質・安定供給確保の維持継続に向けた課題を整理しています [24:ge-academy.org]。提言では、日本薬局方の改正検討体制の整備や原薬安定供給のための制度的基盤の必要性が指摘されています [24:ge-academy.org]。

構造推定:ナフサ危機と原薬の中国依存は、直接的には独立した問題です。しかし両者が同時に顕在化した場合——たとえばホルムズ封鎖の長期化と、何らかの理由で中国からの原薬供給が途絶した場合——日本の医薬品供給は「原料も容器もない」という二重の断絶に直面します。2019年のセファゾリンショックは、この脆弱性の一端をすでに見せていたといえるでしょう。

⚖️ 「足りている」と「足りない」のあいだ——構造的目詰まり

ここまでの話を読んで、「で、結局ナフサは足りているの? 足りていないの?」と思った方もいるでしょう。

答えは、NRI木内氏の分析を借りれば「どちらも事実」です [25:nri.com]。

政府の公式見解はこうです。経産省は「ナフサについては、既に調達済みの輸入ナフサと国内での精製2ヶ月分に加え、川中製品(ポリエチレン等)の在庫2ヶ月分で、少なくとも国内需要4ヶ月分を確保」としています [26:factcheckcenter.jp]。さらに中東以外からのナフサ輸入を月間約45万kLから90万kLに拡大し、在庫活用期間を半年以上に延伸するとしています [9:plastic-pallet.co.jp]。

しかし木内氏は、この「マクロで足りている」と「ミクロで足りない」の乖離を4つの要因で説明しています [25:nri.com]。

第1に、用途ミスマッチ。ナフサ一つ取っても成分や用途が多岐にわたり、量が全体として確保されても、個々の企業が必要とする種類のナフサでなければ既存設備では製品を作れないという事態が生じます [25:nri.com]。

第2に、価格ギャップ。ナフサ価格が高騰すると、エチレンを生産しても価格転嫁できなければ赤字が拡大するため、メーカーは生産を抑制します。実際に三菱ケミカル、三井化学、出光興産など主要メーカーは2026年3月以降、エチレンの生産抑制を続けているとされます [25:nri.com]。

第3に、買い急ぎ(パニック調達)。先行き不安から企業が前倒し調達や過剰確保に走り、流通の目詰まりを引き起こしています [25:nri.com]。

第4に、備蓄原油の品質問題。政府が放出した国家備蓄原油は長期保存向けの重質原油の割合が高く、プラスチック原料となるライトナフサの収率が構造的に低い [9:plastic-pallet.co.jp]。無理にナフサを増やそうとするとプラント設備に過度な負荷がかかるため、現場は慎重な運転を余儀なくされています [9:plastic-pallet.co.jp]。

つまり「4ヶ月分ある」は嘘ではないけれど、そのナフサが必要な場所に、必要な品質で、適正な価格で届くかは別問題——という構造です。木内氏はこの問題について「ホルムズ海峡の船舶の運航が正常化し、企業が元の中東の輸入先からナフサなど石油関連原材料の調達を再び確保できるまで続くだろう」と見通しています [25:nri.com]。

🏛️ 政府と企業の対応——備蓄・代替調達・価格メカニズムの限界

政府の対応を時系列で整理します。

経済産業省は3月24日に国家備蓄原油の放出を決定しました [11:global-scm.com]。3月31日には厚労省・経産省が医薬品・医療機器等の安定確保に向けた対策本部を設置 [16:nri.com]。代替調達として米国産原油の輸入を推進し、4月26日に初の代替調達分がコスモ石油千葉製油所に入港しました(テキサス出発3月22日)[11:global-scm.com]。

しかしここにも構造的な制約があります。

米国産の代替調達は、中東ルートに比べて輸送リードタイムが大幅に長くなります。テキサスから千葉まで約35日かかっており [11:global-scm.com]、中東からの約2週間と比較すると倍以上です。この輸送コストの恒常的な上昇は、仮にホルムズ海峡が明日開いたとしても、すぐには元に戻りません。

また台湾・タイ・ベトナムなどアジア域内でも独自の供給制限が発動されており、日本が代替調達先としてきたアジアからの輸入にも制約がかかっています [9:plastic-pallet.co.jp]。台湾ではポリエチレン・ポリプロピレン等でフォースマジュール宣言、タイでは大手石化メーカーがプラント操業を一時停止、ベトナムは国内供給最優先を義務付けています [9:plastic-pallet.co.jp]。

木内氏は、このような状況下での政策提言として、政府がナフサの配分に積極的に介入することが「例外的、一時的な措置として許容される」と述べています [16:nri.com]。価格メカニズムだけでは医療品の適切な供給が保証されない以上、希少なナフサの用途を医療関連に傾ける措置が必要だという議論です [16:nri.com]。

Specteeのレポートは、より長期的な視点から3つの提言を行っています [5:spectee.co.jp]。戦略備蓄のナフサ・化学品への拡張、JIT(ジャスト・イン・タイム)を超えたサプライチェーンの冗長性設計、そして地政学リスクを「例外」から「定常変数」へ転換する新たなリスク管理フレームワークです [5:spectee.co.jp]。

このうち冗長性設計の論点は重要です。日本の製造業が誇るJIT方式は、在庫を極限まで絞ることで効率を最大化してきました。でも地政学リスクが顕在化した瞬間に、薄い在庫バッファーは脆弱性に転じます [5:spectee.co.jp]。コロナでもこの教訓を得たはずが、コスト優先の論理がJITへの回帰を促してきた——Specteeはそう指摘しています [5:spectee.co.jp]。

🔭 この先に見えるもの

短期的には、ホルムズ海峡の通航が2026年夏ごろに実質的に回復した場合でも、中東産ナフサの供給再開まで2~3ヶ月のタイムラグがあります [27:h-bid.jp]。ナフサ価格の本格的な落ち着きは2026年末~2027年前半、日用品の値上げのピークアウトは2026年後半になると見込まれています [27:h-bid.jp]。

ただし——ここが大事なのですが——「ホルムズが開いたから以前に戻る」とは限りません。

構造推定:中長期的に見ると、日本の石油化学産業はナフサ分解炉の高経年化という問題を抱えています [4:enecho.meti.go.jp]。カーボンニュートラルに向けた原料転換(バイオマスナフサ、CO2由来原料等)の研究開発は進んでいますが [4:enecho.meti.go.jp]、商業スケールでの実用化にはまだ時間がかかります。米国やアジアではナフサからエタンへのクラッカー原料転換が加速しており [28:plastic-pallet.co.jp]、今回の危機がその動きをさらに後押しする可能性があります。

日本のプラスチック循環構造にも目を向ける必要があります。日本はサーマルリサイクル(焼却によるエネルギー回収)の比率が高く、マテリアルリサイクルやケミカルリサイクルの割合は相対的に低い構造です [29:dnp.co.jp] [30:mitsuichemicals.com]。ナフサ供給が構造的に不安定化する時代において、使用済みプラスチックから原料を再生するケミカルリサイクルの重要性は増していくでしょう。

構造推定:今回の危機が突きつけているのは、「エネルギーと化学原料の二重依存」[5:spectee.co.jp] という日本の産業構造の脆弱性です。原油の中東依存はエネルギー問題として認識されてきましたが、ナフサ——つまり化学原料としての依存——はほとんど議論されてきませんでした。Specteeが言うように、地政学リスクはもはや「例外事象」ではなく、経営戦略に組み込むべき「定常的な変数」として扱う必要があるのかもしれません [5:spectee.co.jp]。

ポテチの色が消えた。それは、食卓と病院と薬局が同じ一本の管でつながっていることを、私たちに見せてくれた出来事でした。


📚参考文献


#ナフサ #エネルギー安全保障 #医療 #食品包装 #サプライチェーン #社会