
障害者求人給与実態の全数調査──宮城県全域2026年5月26日時点スナップショット
1. データ概要
| フルタイム | パート | |
|---|---|---|
| 件数 | 139件 | 233件 |
| A型事業所 | 1件(0.7%) | 50件(21.5%) |
| 非A型 | 138件(99.3%) | 183件(78.5%) |
| 給与レンジ下限中央値 | 182,750円/月 | 1,038円/時 |
| 給与レンジ上限中央値 | 230,000円/月 | 1,048円/時 |
| 上限−下限の幅 | 47,250円 | 10円 |
※ 宮城県の最低賃金は2025年10月4日改定で 1,038円/時(前年973円から+65円、引上率6.7%)。パート下限中央値と完全に一致しており、求人の過半数が最低賃金ちょうどで募集されていることを意味する。
A型事業所の判定について
ハローワーク求人データには「A型事業所である」ことを示す統一的な構造化フィールドが存在しない。事業所名、仕事内容、備考欄など任意のテキスト項目に「就労継続支援」「A型」等の文字列が含まれているかどうかで判別するしかなく、本分析では全フィールドに対する以下のパターンマッチで検出した。
row["_is_a_type"] = int(any(
"就労継続支援" in str(v) or "A型" in str(v)
for v in obj.values()
if isinstance(v, str)
))
このため、表記揺れ(全角半角の混在、「A型」と「A型」の違い、「就労支援A型」のような略記)によって検出漏れが生じうる。本分析のA型件数は下限値であり、実際にはこれより多い可能性がある。逆に、B型事業所が「就労継続支援」の文字列のみで引っかかるケースは、「A型」との複合条件ではないため理論上ありうるが、B型は雇用契約を結ばないためハローワーク求人に掲載されること自体がまれであり、混入リスクは低い。
なお、今回使用したハローワーク求人データのテキストフィールドでは半角「A型」表記は使用されておらず、本分析では半角表記の検出は行っていない。
2. 分布の特徴
フルタイム


- 下限の最頻値帯は180,000〜190,000円(36件)で、全体の約26%がここに集中
- 150,000〜210,000円の範囲に全体の約75%が収まる
- 250,000円以上は散発的(各区間1〜2件)
- バブルチャートでは対角線(下限=上限)から離れた点が多く、レンジ提示型の求人が主流
- A型はわずか1件で、フルタイム市場はほぼ一般企業の障害者雇用枠
パートタイム


- 下限1,000〜1,100円に約83%(194件/233件)が極端に集中
- うちA型が49件を占め、最低賃金近傍にA型と非A型が混在
- バブルチャートでは対角線上の大きな丸(=固定時給・多件数)が目立ち、レンジがほぼない
- 上限中央値1,048円は下限中央値1,038円からわずか+10円で、交渉余地がほぼ存在しない
- 1,200円超はほぼ非A型のみで、件数も少ない
3. 時間単価換算での比較
フルタイムの月給を時給換算し、パートと比較する。
時給換算式:フルタイム月給 ÷ 160h(8h×20日)
| フルタイム(時給換算) | パート | |
|---|---|---|
| 計算前提 | 月160h(8h×20日) | そのまま |
| 下限中央値 | 約1,142円 | 1,038円 |
| 上限中央値 | 約1,438円 | 1,048円 |
- 下限ベースで フルタイムはパートより約10%高い
- 上限ベースでは 約37%の差 が開く
- パートは上限すら1,048円なので、フルタイムの下限にも届かない
つまり「同じ障害者求人」でもフルタイムとパートの間には、時給換算で明確な格差がある。パートは最低賃金にほぼ張り付いており、昇給の構造的余地も乏しい。
4. 手取り試算
4-1. フルタイム(月給制)
下限中央値 182,750円/月(年収 約2,193,000円)で試算:
| 項目 | 月額(概算) |
|---|---|
| 額面 | 182,750円 |
| 健康保険(協会けんぽ宮城・約5%) | −9,140円 |
| 厚生年金(9.15%) | −16,720円 |
| 雇用保険(0.6%) | −1,100円 |
| 所得税 | −2,800円 |
| 住民税 | −5,900円 |
| 手取り | 約147,000円 |
上限中央値 230,000円/月(年収 約2,760,000円)の場合:
| 項目 | 月額(概算) |
|---|---|
| 額面 | 230,000円 |
| 社会保険(健康保険、厚生年金、雇用保険)計 | −33,900円 |
| 所得税 | −4,100円 |
| 住民税 | −8,500円 |
| 手取り | 約183,500円 |
※ 障害者控除(27万円・特別障害者なら40万円)の適用で所得税・住民税は数千円/月さらに軽減される可能性あり。上記は非適用での概算。
4-2. パート(時給制・社保加入前提)
中央値 1,038円で、週20時間勤務(月80時間)・週30時間勤務(月120時間)の2パターン:
| 項目 | 週20h(月80h) | 週30h(月120h) |
|---|---|---|
| 月収 | 83,040円 | 124,560円 |
| 社会保険(約14.75%) | −12,250円 | −18,370円 |
| 所得税 | 0円 | −1,000円 |
| 住民税 | 非課税 | −2,000円 |
| 手取り | 約70,800円 | 約103,200円 |
※ 障害者控除(27万円・特別障害者なら40万円)の適用により、週30hでも所得税・住民税はほぼゼロとなる可能性がある。上記は非適用での概算。
※ 2024年10月から従業員51人以上の企業では週20h以上・月額88,000円以上で社会保険の適用対象となっており、障害者雇用の受け皿企業(特例子会社等)には該当する企業が多い。週20hの月収83,040円は賃金要件(月額88,000円)を下回るため非該当となるケースもあるが、所定労働時間や契約条件次第では適用されうる。
5. 構造的な所見
パートは最低賃金の受け皿
パート233件のうち約83%が時給1,000〜1,100円に集中しており、下限中央値1,038円は宮城県最低賃金(2025年10月改定)と完全に一致する。つまり求人の過半数が法定最低額ちょうどでの募集。A型事業所が50件(21.5%)含まれるが、非A型もほぼ同じ賃金帯に張り付いている。「A型だから安い」のではなく、パート障害者求人の市場そのものが最低賃金で均衡している。
フルタイムの「見かけの幅」
フルタイムは下限〜上限のレンジが平均で5万円弱あるが、下限中央値が182,750円ということは、手取りベースで15万円を切る層が相当数いる。仙台で一人暮らしの場合、家賃4〜5万+光熱費+食費で月12〜13万は最低限かかるため、手取り14.7万円は生活防衛ラインぎりぎり。
時給換算格差の意味
フルタイムの時給換算 約1,142円 vs パートの1,038円。この約100円/hの差は小さく見えるが、フルタイムには社会保険(厚生年金・健康保険)の事業主負担分が上乗せされており、実質的な「人件費単価」ではフルタイムのほうが企業コストが高い。にもかかわらず募集時給にそこまで差がないということは、パートの時給が構造的に抑制されている可能性を示唆する。
A型事業所の位置づけ
- フルタイムでA型はわずか1件 → A型は原則パート前提の制度設計
- パートのA型50件のうち49件が最低賃金(1,038円)近傍に集中し、残り1件が1,200円台 → 最低賃金保障だが、それ以上に上がる仕組みがほぼない
- 非A型パートもA型と同水準 → 一般企業のパート障害者雇用も「A型と変わらない」賃金水準で募集している
生活設計の現実
| 雇用形態 | 手取り(月) | 仙台一人暮らし可否 |
|---|---|---|
| フルタイム下限帯 | 約147,000円 | ぎりぎり(余裕なし) |
| フルタイム上限帯 | 約183,500円 | 可能(最低限の余裕) |
| パート週30h | 約103,200円 | 単独では困難 |
| パート週20h | 約70,800円 | 単独では不可能 |
障害年金(2級・2026年度月額70,608円)や障害者手帳による各種減免と組み合わせた場合に、パート週20hでも月15万円前後になり辛うじて生活圏に入る、という構造。
生活保護水準との比較
仙台市は生活保護の級地区分で 1級地-2 に分類される。65歳未満・単身世帯の最低生活費は以下の通り。
| 扶助項目 | 月額 |
|---|---|
| 生活扶助(第1類+第2類) | 73,720円 |
| 住宅扶助(上限) | 37,000円 |
| 基本合計 | 110,720円 |
| 障害者加算(1・2級の場合) | +26,810円 |
| 障害者加算込み合計 | 約137,530円 |
※ 3級相当の場合の障害者加算は17,870円/月で、合計約128,590円。
これに加え、生活保護には現金給付に現れない現物給付がある。
- 医療扶助:医療費自己負担ゼロ(障害者にとって極めて大きい)
- 住民税非課税
- NHK受信料免除
- 国民年金保険料免除(全額免除で受給資格期間に算入)
- 自治体によっては水道基本料減免等
障害者求人の手取りと生活保護水準を並べると、構造的な逆転現象が見える。
| 状態 | 月額(実質) | 医療費負担 |
|---|---|---|
| 生活保護(障害加算なし) | 110,720円 | ゼロ |
| 生活保護(障害2級加算) | 約137,530円 | ゼロ |
| パート週20h 手取り | 約70,800円 | 自己負担あり |
| パート週30h 手取り | 約103,200円 | 自己負担あり |
| フルタイム下限帯 手取り | 約147,000円 | 自己負担あり(3割) |
| フルタイム上限帯 手取り | 約183,500円 | 自己負担あり(3割) |
パート週30h以下の障害者求人は、手取り額が生活保護の基本水準すら下回る。医療費負担を加味すれば、フルタイム下限帯ですら障害者加算付き生活保護との実質差は1万円程度にまで縮まる。「働いたほうが損」とまでは言わないが、就労による経済的メリットが制度的支援を下回るか拮抗する賃金水準で求人が構成されている、という事実は記録しておく必要がある。
なお、生活保護基準は宮城県内でも級地により異なり、仙台市以外(2級地-2〜3級地-2)ではより低くなる。ただし、求人も仙台市に集中する傾向があるため、仙台市基準での比較が実態に近い。
6. 国際労働基準から見た評価
適用される国際基準
日本は以下の国際条約・勧告を批准・受諾しており、障害者の賃金・雇用に関する国際的義務を負っている。
| 文書 | 採択/発効 | 日本の状況 | 賃金に関する核心規定 |
|---|---|---|---|
| ILO第159号条約(障害者の職業リハビリテーション及び雇用) | 1983年採択 | 1992年批准 | 障害者と一般労働者の機会均等・均等待遇の原則 |
| ILO第168号勧告(同条約の補足勧告) | 1983年採択 | 条約批准に伴い適用 | 第10項:障害者の雇用機会は「一般労働者に適用される雇用及び給与基準に適合する」ものでなければならない |
| 国連障害者権利条約(CRPD) | 2006年採択 | 2014年批准 | 第27条:障害者は他の者との平等を基礎として、同一価値労働同一報酬を含む公正かつ良好な労働条件を享受する権利を有する |
| ILOディーセントワーク・アジェンダ | 1999年〜 | ILO加盟国として適用 | 生産的で公正な収入をもたらす雇用機会、職場における社会的保護、社会的統合のための個人的発展の見通し |
ILO第168号勧告第10項の「一般労働者に適用される雇用及び給与基準に適合する(conform to the employment and salary standards applicable to workers generally)」は、障害者の賃金が一般労働者と同等の水準であるべきことを明示的に求めている。これは努力義務ではなく、条約第159号を補完する具体的基準である。
日本に対する国際的指摘
CRPD委員会 対日審査総括所見(2022年9月)
2022年8月、障害者権利委員会は日本の初回国家報告を審査し、同年9月に総括所見(CRPD/C/JPN/CO/1)を採択した。第27条(労働及び雇用)に関して、委員会は以下の懸念を表明している。
パラグラフ55(懸念事項):
(a)知的障害者および精神障害者の労働市場への参加を排除または制限する差別的な法令が存在すること
(b)最低賃金法が障害者を最低賃金の適用から除外しており、その結果、多くの障害者が最低賃金を下回る報酬で就労していること
(c)障害者が福祉的就労(sheltered workshops)に継続的に隔離されており、これらの作業所から開かれた労働市場への段階的移行に向けた具体的計画が欠如していること
パラグラフ56(勧告):
委員会は一般的意見第8号(2022年)を想起し、SDGsターゲット8.5に沿って以下を勧告した。
(a)障害者の開かれた労働市場への参加を排除または制限するすべての差別的法令を廃止し、合理的配慮、再訓練、昇進等を含む雇用関連の権利における差別と闘う効果的措置をとること
(b)最低賃金法を見直し、同一価値労働に対する同一報酬を確保すること
(c)福祉的就労から開かれた労働市場への移行を可能にする具体的な計画と手段を策定すること
ILO Working Paper 124(2024年8月)
ILOが2024年8月に公表したワーキングペーパー「障害者の雇用と賃金に関する研究」(WP124)は、世界30カ国のデータを分析し、以下を報告している。
- 障害のある労働者は、障害のない労働者と比較して時給が平均12%低い
- この格差の4分の3(約9%分)は、教育水準・年齢・職種の違いでは説明できない(=説明不能な賃金格差)
- 低・中所得国ではこの格差は**26%**に拡大し、その約半分が説明不能
- 障害のある労働者は最低賃金以下で雇用されている比率が高い
- 女性障害者はさらに男性障害者との間に5〜6%の性別賃金格差を被る
宮城県データとの照合
本分析のデータをILO/CRPD基準に照合すると、以下の構造的不適合が可視化される。
1. ILO第168号勧告第10項への不適合
障害者求人のパート下限中央値は1,038円/時。最低賃金と同額であり、勧告が求める「一般労働者に適用される給与基準への適合」からは明確に乖離している。
2. CRPD第27条への不適合
パート障害者求人の83%が最低賃金帯(1,000〜1,100円)に集中しており、上限中央値ですら1,048円(下限から+10円)という交渉余地ゼロの構造は、「同一価値労働同一報酬」の原則と整合しない。
3. CRPD委員会が指摘した最低賃金法の減額特例
日本の最低賃金法第7条は、精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者について、都道府県労働局長の許可により最低賃金の減額特例を認めている。CRPD委員会はこの制度を名指しで問題視した。本分析で確認されたパート求人の最低賃金張り付き構造は、減額特例の直接的な影響ではないものの(求人票上は最低賃金以上で掲載されている)、最低賃金をそのまま障害者の「適正賃金」とみなす市場慣行が、減額特例の存在と同じ構造的前提に立っていることを示唆する。
4. ILO WP124が指摘した「説明不能な賃金格差」の国内的現れ
宮城県の障害者求人市場における賃金水準の極端な下方収束は、職務内容や労働者の能力差では説明できない。A型事業所でも非A型でもパート時給はほぼ同一帯に張り付いており、施設形態にかかわらず「障害者向け求人」であること自体が賃金水準を決定している構造が読み取れる。これはILO WP124が30カ国データで指摘した「説明不能な障害者賃金格差」の、日本の地方都市レベルでの具体的な表れである。
5. ディーセントワーク基準からの逸脱
ILOのディーセントワーク概念は、「生産的で公正な収入をもたらす雇用」「社会的保護」「社会的統合への見通し」を要件とする。フルタイム障害者求人の下限帯で手取り約147,000円、パート週30hで約106,000〜120,000円という水準は、障害者加算付き生活保護(約137,530円+医療費ゼロ)と拮抗または下回っており、「就労が生活保護からの自立に寄与する」という制度的前提が成立していない。就労によって経済的状況が改善しない(場合によっては悪化する)雇用は、ディーセントワークの定義に合致しない。
7. まとめ
宮城県の障害者求人市場は、フルタイム・パートともに賃金の下方硬直性が強く、特にパートは最低賃金(1,038円)にほぼ固定された状態にある。フルタイムとパートの時給換算差は約10%だが、社会保険加入の有無まで含めると実質的な待遇格差はそれ以上に大きい。手取りベースでは、フルタイム下限帯ですら仙台での単身生活は防衛ラインぎりぎりであり、パートのみでの経済的自立は制度的支援(障害年金・各種減免)なしには成り立たない構造となっている。さらに、生活保護水準(仙台市1級地-2、障害者加算込み約137,530円/月+医療費ゼロ)との比較では、パート求人の手取りは生活保護基本水準を下回り、フルタイム下限帯ですら医療費負担を含めた実質差は約1万円に縮まる。
これは見過ごせないデータだ。障害者雇用が「生活保護からの自立」として機能するには、現行の賃金水準は構造的に不十分である。
この実態は、日本が批准するILO第159号条約・第168号勧告が求める「一般労働者に適用される給与基準への適合」、CRPD第27条が保障する「同一価値労働同一報酬を含む公正かつ良好な労働条件」、およびILOディーセントワーク・アジェンダが掲げる「公正な収入をもたらす雇用機会」のいずれにも適合していない。2022年のCRPD委員会対日総括所見は、最低賃金法の減額特例や福祉的就労への隔離を名指しで問題視したが、本分析が示すのは、ハローワークの一般的な障害者求人においてすら最低賃金張り付き・生活保護水準以下という構造が常態化しているという、勧告の射程を超えた広がりを持つ問題だ。
そして、あなたに何かあったとき
───あなたが悪くなくても、ここに来る。
データソース:ハローワークインターネットサービス求人情報─障害のある方のための求人(宮城県全域)2026年5月26日全数調査
国際基準参照:ILO Convention No. 159 (1983); ILO Recommendation No. 168 (1983), para. 10; CRPD Article 27; CRPD/C/JPN/CO/1 paras. 55-56 (2022); ILO Working Paper 124 “A study on the employment and wage outcomes of people with disabilities” (2024); ILO Decent Work Indicators (2013)
分析:feral scholar Ayanonymous|TruResearch™
#障害者雇用 #最低賃金 #生活保護 #全数調査 #データ分析
