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「依存してません」までがセットです——ゲーム依存はWHOが認めた—SNS依存の"不在"が意味するもの

スマートフォンを開いたら、まずインスタを確認する。通知がないのに何度もタップする。楽しくないのに、やめようと思ってもやめられない。——これ、依存症の症状じゃないのかな、と思ったことがある人は少なくないはずです。

でも医学的には、SNS依存は「正式な疾患」ではありません。今のところは。

依存してない それもビジネス
踏み抜いてくのか そのスキマ
報酬系 火花散らして
気づいた頃には 沼の中( ᐛ )

なぜか。その話をします。

TruResearch™


🔖 用語がバラバラ、定義もバラバラ

まず前提として、SNSの過剰使用を指す言葉が研究の世界でも統一されていません。

「social media addiction」「excessive social media use」「problematic social media use(PSMU)」——同じ現象を指しているのに、論文ごとに呼び方が違う [1:ncbi.nlm.nih.gov]。

これ、単なる表記ゆれではありません。定義が統一されていないということは、研究間でデータを比較できない。有病率の推定も、介入効果の検証も、すべて「同じ土俵」で話せない状態です。

思春期中期(中学生前後)を対象にした系統的レビューでも、この問題はそのまま指摘されていて、PSMUの定義や評価法の多様性が研究の結論を困難にしていると述べられています [2:springer.com]。

定義が固まらない→研究が積み上がらない→診断基準が作れない。このループが続いています。


🔬 「依存症と同じ脳の動き」は確認されている

じゃあ実態はどうなのか、という話です。

報酬系の異常活性化抑制制御の障害——物質依存(アルコール、薬物)や行動依存(ギャンブル、ゲーム)で確認されている神経メカニズムと、SNS過剰使用で見られるメカニズムには、共通のパターンが確認されています。

Instagram過剰使用者を対象にしたfMRI研究では、SNS依存特有のキューに対してドーパミン報酬系が活性化し、同時に実行制御ネットワーク(ECN)が抑制されることが示されています——これは他の行動依存症や物質使用障害と収束する神経病理学的パターンです [5:ncbi.nlm.nih.gov]。

SNSと神経科学の関係を包括的にレビューした系統的MRI研究も、SNS使用が報酬ネットワーク・顕現性ネットワーク・デフォルトモードネットワークなどを動員し、少なくとも部分的に物質依存の知見と一致するとしています。ただし、因果関係(SNSが神経適応を「引き起こす」か)を示す縦断的エビデンスはまだ不足しているとも明示しています [6:ncbi.nlm.nih.gov]。

ICD-11でゲーム障害(Gaming Disorder)が2019年に正式収載されたのも、こうした神経生物学的な類似性が根拠の一つです。WHOは、ゲーム障害とギャンブル障害は「症状、疫学、神経生物学的な類似性」からICD-11で依存症による障害として分類された、と明示しています [3:who.int]。

では、SNSは?

SNS使用障害(Social Media Use Disorder: SMUD)は、ICD-11には正式な独立診断として収載されていません。ただし、ICD-11には「その他の嗜癖行動による障害」(コード: 6C5Y)という受け皿カテゴリが存在しています。SNS使用障害はこのカテゴリの適用候補として研究者たちによって明示的に議論されており、2025年のEuropean Psychiatry誌掲載論文も「SNSの問題的使用はICD-11の6C5Yにおける『その他の嗜癖行動による障害』として考えられうる」と述べています [7:cambridge.org]。また、6C5Yへの分類を適用するための研究者コミュニティによる「メタ基準」も提案されています [8:sciencedirect.com]。

「正式定義はないけど入れようと思えば入れられる箱はある」——この微妙な位置づけ、ちょっと覚えておいてください。


📋 ICD-11の基準を借りて「測定」する試みはある

正式な診断がないなら、暫定的に使える基準を流用しよう——という発想で進んでいる研究もあります。

2021年に発表された研究では、ICD-11のゲーム障害の診断基準を応用して、青年期向けのSNS使用障害評価尺度「SOMEDIS-A(Social Media Use Disorder Scale for Adolescents)」が開発・検証されました [1:ncbi.nlm.nih.gov][4:frontiersin.org]。

931名の10〜17歳を対象に検証したところ、この尺度は「認知行動症状」と「負の結果」の2因子構造を示し、内的整合性は良好。ROC分析によって、頻繁に利用する若者の約3.3%がSMUDと分類されました [1:ncbi.nlm.nih.gov]。

つまり、ゲーム障害の基準を借りれば、SNS使用障害も一定の精度で測定できるという実証が出ています。SNS専用の診断基準が存在しないまま、隣の診断基準で「仮の測定」が始まっている状態です。


🎮 ゲームは認定されて、SNSは認定されない——なぜ?

ここが核心です。

DSM-5(アメリカ精神医学会の診断マニュアル)では、インターネットゲーミング障害(IGD)は「さらなる研究が必要な状態」として巻末に掲載されています——正式診断ではないけれど、研究対象として位置づけられている [9:psychiatry.org]。ICD-11では一歩進んで、ゲーム障害は正式診断として収載されました [3:who.int]。

このプロセスには先例があります。DSM-5がIGDを「要研究」カテゴリとして掲載したのは2013年——WHOがICD-11ベータ版にゲーム障害を追加したのはその2年後の2015年です [14:pmc.ncbi.nlm.nih.gov]。DSMが「まだ正式診断ではないが研究に値する」と旗を立てることで、国際的な研究蓄積が促進され、その証拠がICD収載を後押しするという経路が、ここでは実際に機能しました。

ギャンブル障害に至っては、ICD-11より前から分類されています。 [3:who.int]。

で、SNSは——まだ入っていない。

なぜゲームが先に認定されたのか。WHOの公式見解は、ゲーム以外のインターネット活動については「十分な実証的支持がなかった」というものです。これは科学的に正当な理由です。

ただし、もう一つ見えてくる構図があります。

ゲームにもエンゲージメント依存型の課金モデルは存在しますが、SNSほどプラットフォーム全体の収益がエンゲージメント時間に直接依存する構造にはなっていない。

一方、SNSのビジネスモデルは、ユーザーの注意とエンゲージメントそのものを広告収益に変換する仕組みです。

「SNSを依存症と認定すること」は、SNSプラットフォームの設計そのものが依存を誘発するという議論に直結する。

この問題は学術的にも指摘されています。London School of Hygiene & Tropical Medicineらによる査読論文は、SNS企業を「健康の商業的決定因子(Commercial Determinants of Health)」として位置づけ、プラットフォームが有害性を認識しながら広告収益のために行動変容を促し続けている構造を分析しています [10:ncbi.nlm.nih.gov]。ただし、これがWHOの診断決定に直接影響を与えたという証拠は現時点では存在しません。


🇺🇸 アメリカ国内での圧力——記録に残っている部分

WHOへの直接的な働きかけは記録に残らない性質のものですが、DSMを管轄するAPA(アメリカ精神医学会)が動く前提となるアメリカ国内の立法・研究アジェンダに対しては、かなり具体的な記録が存在します。

立法阻止への支出:

2024年、Meta(Facebook・Instagramの親会社)・Alphabet(Google・YouTubeの親会社)・Microsoft・ByteDance(TikTokの親会社)・X(旧Twitter)・Snapの6社は、連邦ロビイングに合計6150万ドルを投じました——子どものオンライン保護・データプライバシー・外国の敵対的影響力排除を目的とした新立法の審議が進む中での支出です [11:issueone.org]。

「テック企業がコモンセンスな保護策が勢いを得るたびに何千万ドルもつぎ込んで政治家に取り入るのは偶然ではない」

——Issue One上級調査ディレクターのMichael Beckelはこう指摘します [11:issueone.org]。

KOSAは2024年7月に91対3という超党派の圧倒的多数で上院を通過し、国民の約9割が支持し、200以上の擁護団体が後押ししながらも、下院では廃案になりました [13:techpolicy.press]。

Metaなどのテック大手は、議会にロビイストを大量投入し、独立しているように見えて実際は企業の意向に沿う市民社会団体に資金提供するという、積極的な水面下のキャンペーンを展開して法案を阻止しました [13:techpolicy.press]。

研究・学術アジェンダへの介入:

「依存症的なデザインが莫大な収益を生んでいるため、プラットフォームは最優秀の人材を雇い、立法・規制の戦いだけでなく、この問題をめぐる学術研究の形成にまで介入できます。ロビイングの鉄則——現状から得る利益が大きいほど、現状を守るための影響力も大きくなる——がここでも働きます」(The Regulatory Review / Emory大学法学部 Matthew Lawrence教授)[12:theregreview.org]。

Issue Oneによれば、テック業界は「ロビイング・広報キャンペーン・戦略的フィランソロピーを通じてエコーチェンバーを構築し」、Section 230(免責条項)について「いかなる改革もイノベーションを破壊する」と議員を説得し続けることで、企業自身の設計上の判断がもたらす被害に対してほぼ完全な免責を享受してきました [11:issueone.org]。

APAとDSMの文脈で:

アメリカで社会的メディア使用障害が臨床的に認定されるには、APAのDSMへの収載が必要になります。

DSMはすべての米国精神医療従事者が依拠する枠組みであり、かつ世界中の研究もDSMの診断基準を参照します。つまり、DSMをめぐる議論に影響を与えることは、WHOのアジェンダにも間接的に作用しうる構造になっています。

診断化への利害:

「ソーシャルメディアへの懸念は規制すべき実態か、それともイノベーションを脅かす『モラルパニック』か」という問いに対し、逆に「規制が必要というパニックこそ、業界が作り出したロビイング戦術ではないか」という視点も投げかけられています(The Regulatory Review) [12:theregreview.org]。

パターンは明確で、「データ収集の制限・ユーザー操作の禁止・企業への責任移転のいずれかが規制の俎上に上がるたびに、ビッグテックは大挙して現れます。多くの場合、彼らは成功します。

その結果、規制は骨抜きにされ、企業の都合に合わせた環境が維持され続けます。

カネが影響力を買い、影響力が改革を阻み、改革がないことでさらに利益が生まれ、そのカネがさらに影響力を買う——自己強化のサイクルです」(TechPolicy.Press) [13:techpolicy.press]。


🏥 「依存してない」と言い続けるのも、構造の一部

念のため言っておくと、「SNS使用障害が正式診断でない」という事実は、それ自体は中立な情報です。研究の蓄積が十分でない、という理由もある。

でも「依存症ではない」という公式見解が、プラットフォーム企業にとって便利に機能している——そう見えることは、少なくとも事実です。

規制の根拠が薄くなる。保護者や教育機関が「医学的問題」として扱いにくくなる。本人が「自分は依存じゃない、だって病気じゃないから」と思い込みやすくなる。

それが意図的な設計なのか、結果的にそうなっているのか。そこは判断しなくていい。ただ、「便利な構造の中に自分がいるかもしれない」という視点は、持っていていいかもしれません。

臨床的にはほぼ依存症の要件を満たしている行動パターンが確認されていて、測定ツールも作られて、神経メカニズムも共通している。それでもまだ「正式疾患ではない」。

その理由が純粋に科学的なものか、それとも別の何かが混じっているのか——答えを急ぐ必要はありません。ただ、問いとして持っておく価値はあると思います。


📚 参考文献


反証可能性

本記事の主張に対して、以下の反証可能性を明示します。

  1. 「SNS過剰使用の神経メカニズムは物質依存と共通している」という主張に対して: 系統的MRI研究 [6:ncbi.nlm.nih.gov] 自身が認めているように、「SNSが神経適応を引き起こすか」を示す縦断的エビデンスはまだ不足している。相関的な類似性は因果関係を意味せず、問題的SNS使用が疾患プロセスとして物質依存と同等であるという結論は時期尚早である。
  2. 「3.3%がSMUDと分類された」というSOMEDIS-A研究について: この研究は単一国(ドイツ)のオンライン調査であり、異なる文化圏での追試やサンプルバイアスの検討なしに有病率を一般化することはできない。
  3. ゲーム依存とSNS依存の非対称性についての産業構造的説明に対して: ゲーム産業も巨大産業であり、ICD-11への収載時には業界から強い反発があった。産業利害の大きさだけが診断化のハードルを決定するわけではない。

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