ほんとに欲しい人材はどっち?国際比較してみた本音と建前

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🌍 はじめに:世界が求める人材像の多様性

企業が採用時に求める人材像と、実際に活躍する人材には、しばしば大きなギャップが存在します。建前では「協調性」「主体性」「グローバルマインド」といった理想像が掲げられますが、本音では何を求めているのでしょうか。

世界中の組織を調べると、その答えは国や地域、企業文化によって大きく異なることがわかります。[1:worldbank.org]の研究によると、(ここで扱われている東欧・中央アジア地域の)開発途上国では、スキルギャップが経済成長のボトルネックになっており、企業が求める人材と労働力が保有するスキルの不一致が深刻化しています。特に注目すべきは、雇用者と労働者の双方が、現在の教育システムが市場の実際のニーズを十分に満たしていないと認識している点です。

本稿では、国際比較を通じて、組織文化が本当に求める人材像を明らかにし、日本の文脈における本音と建前の違いを浮き彫りにします。

💼 組織文化が求める人材の本当の顔

組織が従業員に期待する行動は、その組織の文化タイプによって大きく左右されます。[2:pmc.ncbi.nlm.nih.gov]の研究では、世界150以上の組織に所属する513人の従業員を対象に、組織文化が従業員の自発的な組織市民行動(OCB: Organizational Citizenship Behavior)にどのような影響を与えるかが調査されました。

興味深いのは、クラン文化(家族的で協力重視)アドホクラシー文化(革新や自律性重視)を持つ組織では、利他主義、スポーツマンシップ、礼儀正しさ、シビック・バーチュー(組織全体への関心・コミットメント)といった市民的行動が総じて高まりやすいことです。一方で、階層や規則を重視するヒエラルキー文化や、競争と成果を前面に出すマーケット文化では、こうした自発的行動は相対的に高まりにくい傾向が示されています。[2:pmc.ncbi.nlm.nih.gov]

つまり、建前ではどの企業も「チームプレイヤーを求める」と言いますが、どのようなチームプレー(助け合い・創造性・規律・競争など)を重視するかは、支配的な組織文化によって異なるのです。[3:pmc.ncbi.nlm.nih.gov]のレビューによれば、多文化チームの成果に対し、文化的多様性そのものの直接効果は一貫しておらず、創造性、チームの結束、葛藤といったプロセス変数を介して間接的に影響することが指摘されています。

したがって、企業が本当に求めているのは「多様性」そのものではなく、その多様性を活かし、望ましいプロセス(創造性の発揮、建設的な議論、適切なコンフリクトマネジメント)を設計・運営できるプロセス管理能力だと言えます。

🌐 国際比較:文化的価値観の違い

個人主義と集団主義の度合い、さらに「水平(平等)/垂直(階層)」といった価値観の違いは、「望ましい人材像」に大きく影響します。[4:pmc.ncbi.nlm.nih.gov]の測定研究では、米国とメキシコの参加者の個人主義・集団主義スコアが比較されました。

結果として、米国参加者は垂直的集団主義(階層構造を前提にした上での集団への忠誠や調和)でメキシコ参加者より高いスコアを示し、メキシコ参加者は水平的個人主義(他者と平等な関係を前提としつつ自律性を重視)と水平的集団主義(平等な関係のなかで集団への一体感を重視)で高いスコアを示しました。[4:pmc.ncbi.nlm.nih.gov]

このことは、同じ「集団主義」でも、米国では階層秩序の中での役割遂行と忠誠が強調される一方、メキシコではより平等な関係に基づく連帯が重視されるなど、その内実は国によって異なることを示しています。

さらに、[5:pewresearch.org]のグローバル調査によると、「成功は主に個人の努力次第だ」と考える傾向は北米と日本で相対的に強く、他地域では運や社会的環境などの外部要因をより重視する傾向があります。この違いは、企業が「成功する人材」をどうイメージするかにも反映されます。北米と日本では「主体的で自己責任を果たせる人」が理想視されやすく、他の多くの地域では「環境や集団にうまく適応し、関係性を維持できる人」がより重視される傾向があります。

📊 雇用者が本当に求めるスキル:建前と本音

[6:documents1.worldbank.org]による複数国の大規模調査では、雇用者と労働者のあいだに大きな認識ギャップが存在することが明らかになりました。この調査では、企業が求めるスキルを「職業特有の技術スキル」「認知的・基礎スキル」「社会情動(ソーシャル・エモーショナル)スキル」に分類して測定しています。
求人票や政策文書上の建前としては、これら3つのスキルが並列に重視されているように見えます。しかし、実際のスキルギャップや賃金プレミアムを分析すると、採用時に最もボトルネックとなりやすいのは職業特有の技術スキルであり、ここでの不足が企業の成長や生産性向上の妨げになっていることが示されています。[6:documents1.worldbank.org]

さらに興味深いのは、賃金構造に見られるバイアスです。[7:documents1.worldbank.org]の(同一文書内の)給与分析によると、一部の開発途上国では、公務員給与と民間部門との賃金差において、女性や低学歴層のほうが相対的に大きな「公務プレミアム」を享受しているケースが見られます。これは、市場で本来評価されるべき能力やポテンシャルが、性別や学歴による構造的な要因によって十分に反映されていない可能性を示唆します。

また、[8:www.ilo.org]の用語集では、スキルギャップ(求められるスキルと保有スキルの不一致)と、スキルミスマッチ(従事している仕事の要件と保有スキルの不一致)が明確に区別されています。前者は採用や人材確保段階で問題となり、後者は既に雇用されている労働者の生産性・満足度・離職率などに影響します。この区別を踏まえると、「欲しい人材がいない」という企業の不満と、「せっかくのスキルが活かせない」という労働者の不満は、別のレイヤーの課題であることが分かります。

🇯🇵 日本の文脈:調和か、主体性か

日本における人材ニーズは、特に矛盾に満ちています。[9:www.mhlw.go.jp]による厚生労働白書の分析では、キャリアコンサルティングの経験者は、自身のスキルが他社や他職種でも通用すると評価し、転職やキャリアチェンジに前向きな傾向が見られます。一方で、日本全体としては自己啓発の実施率は長期的にみて頭打ち〜低下傾向にあり、「主体的キャリア形成」のメッセージと実際の行動とのあいだにギャップが存在します。[9:www.mhlw.go.jp]
この矛盾の背景には、日本企業の本音と建前の乖離があります。

建前: 「主体的なキャリア形成を支援する」「自己啓発を推奨する」

本音(現実): 企業による研修機会や金銭的支援は限られており、長時間労働や業務都合のために自己啓発の時間確保が難しいケースが多い。さらに転職や短期間での職場移動は、依然として「ジョブホッパー」とネガティブに評価される場面も少なくありません。[9:www.mhlw.go.jp]

[5:pewresearch.org]のデータと併せて考えると、日本社会は「成功は個人の努力で決まる」という物語を好みつつも、実際の評価制度では組織への適応や長期勤続といった集団主義的要素を強く重視していると言えます。この二重構造が、労働者のキャリア選択を迷走させ、企業側の「欲しい人材がいない」という感覚を強めています。

若年移民の研究は、この問題の本質を照らします。[10:www.nber.org]の研究によると、ベトナムから米国に移住した若者(主に難民)を対象に、14~17歳で到着したグループは、18~21歳で到着したグループに比べて、その後の教育達成、英語能力、所得などで大きな差が生じていることが示されました。その差のかなりの部分は、言語習得機会と教育機会への早期アクセスによって説明されます。[10:www.nber.org]

この知見は、日本においても示唆的です。個人の「主体性」だけを強調するのではなく、早い段階から学びと挑戦の機会を提供し、失敗を許容する制度的な環境に投資できるかどうかが、長期的なキャリア成果を大きく左右する可能性があります。

🎯 本音と建前のギャップを埋めるもの

本音と建前のギャップを埋めるカギは、透明性と一貫性です。[11:www.ilo.org]の職場ジェンダーバイアスに関する研究では、無意識のバイアスを軽減する手段として、

といった方法が有効であると報告されています。[11:www.ilo.org]

これは、採用・評価プロセスを「属人的な裁量」から「ルールとデータにもとづく仕組み」に近づけることで、建前(多様性・公平性の尊重)と本音(業績重視)のあいだに整合性を持たせられることを意味します。採用基準と評価基準をできる限り明示し、それを組織のあらゆるレベルで一貫して運用することが、建前と本音のギャップを縮める最も実務的な方法の一つです。

同時に、個人のスキル開発への投資も不可欠です。
[12:www.mhlw.go.jp]の調査では、OFF-JT(Off-the-Job Training:職場を離れて行う研修)や企業による金銭的・時間的支援がある場合、従業員の自己啓発実施率が有意に高まることが示されています。[12:www.mhlw.go.jp]

もし企業が本気で「主体的人材」を求めるのであれば、その主体性を発揮できるだけの余白と、挑戦を支えるリソース(時間・費用・情報)を提供する必要があります。
また、[13:www.worldbank.org]によると、21世紀の労働市場で求められるスキルは、

  1. 読み書き計算などの基礎スキル
  2. コミュニケーション力や自己制御力などの社会情動スキル
  3. 職業固有の専門スキル
  4. ITリテラシーなどのデジタルスキル

の4つが相互補完的に重要だと整理されています。

[13:www.worldbank.org] 重要なのは、これらは学校教育だけでは十分に身につかず、企業と教育機関の連携、そして社会人以降も続く生涯学習の仕組みが不可欠だという点です。

📢 日本人へのメッセージ:本当に必要なこと

国際比較から見えてくるのは、日本の人材市場は大きな過渡期にあるということです。

かつての日本型経営では、「企業への適応能力」と「長期勤続」が最高の価値とされてきました。しかし、グローバル化、デジタル化、人口減少が進む現在とこれからの時代には、個人の主体性と継続的なスキル開発が不可欠です。

[9:www.mhlw.go.jp]の調査が示すとおり、キャリアコンサルティングを受けた人材は、自分の能力の「他社・他職種への転用可能性」をより高く評価しています。これは、自分の市場価値を組織の外部基準でも測定してみる視点の重要性を示しています。

企業側にとっては、本当に「主体的人材」を求めるのであれば、

ことが必要です。そうしなければ、掲げられた理想(建前)と現場の運用(本音)のギャップは縮まらず、優秀な人材ほど外部へ流出し続けるでしょう。

個人としては、日本的な「調和を重視する」価値観を完全に捨てる必要はありません。ただしそれと同時に、自分のキャリアについて主体的に意思決定し、継続的にスキルへ投資する姿勢が不可欠です。

そして、組織はその主体性を「浮いた存在」として扱うのではなく、評価し、活かし、支援する文化をつくることが、真の競争力につながっていきます。


📚参考文献

[1] World Bank Group, 「Skills Gaps and the Path to Successful Skills Development: Emerging Findings from Skills Measurement Surveys in Armenia, Georgia, FYR Macedonia, and Ukraine」, https://documents1.worldbank.org/curated/en/205051468038032990/pdf/Skills-gaps-and-the-path-to-successful-skills-development-Final.pdf
[2] Fernandes, P. et al., 「Organizational culture and the individuals’ discretionary behaviors at work: a cross-cultural analysis」, https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10291069/
[3] Stahl, G. K. et al., 「Unraveling the effects of cultural diversity in teams: A retrospective of research on multicultural work groups and an agenda for future research」, https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7812115/
[4] Lu, L. et al., 「Cross-cultural measurement invariance evidence of individualism and collectivism: from the idiosyncratic to universal」, https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10565350/
[5] Pew Research Center, 「Chapter 6. Social and Economic Values」, https://www.pewresearch.org/global/2003/06/03/chapter-6-social-and-economic-values/
[6] World Bank Group, 「Skills Gaps and the Path to Successful Skills Development: Emerging Findings from Skills Measurement Surveys in Armenia, Georgia, FYR Macedonia, and Ukraine」, https://documents1.worldbank.org/curated/en/358131551877529497/pdf/135098-WP-192.pdf
[7] World Bank Group, 「Skills Gaps and the Path to Successful Skills Development: Emerging Findings from Skills Measurement Surveys in Armenia, Georgia, FYR Macedonia, and Ukraine」(賃金分析章), https://documents1.worldbank.org/curated/en/358131551877529497/pdf/135098-WP-192.pdf
[8] International Labour Organization, 「Glossary of Skills and Labour Migration」, https://www.ilo.org/resource/glossary-skills-and-labour-migration
[9] 厚生労働省, 「令和3年版 労働経済の分析 第Ⅱ部 第4章 主体的なキャリア形成に向けた課題」, https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/roudou/21/2-4.html
[10] Kerr, S. P. et al., 「Age at Immigrant Arrival and Career Mobility: Evidence from Vietnamese Refugee Migration and the Amerasian Homecoming Act」, https://www.nber.org/system/files/working_papers/w32067/revisions/w32067.rev0.pdf
[11] International Labour Organization, 「Unconscious gender bias in the workplace」, https://www.ilo.org/media/421401/download
[12] 厚生労働省, 「令和3年版 労働経済の分析 第Ⅱ部 第4章 主体的なキャリア形成に向けた課題」, https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/roudou/21/2-4.html
[13] World Bank Group, 「Skills Development」, https://www.worldbank.org/en/topic/skillsdevelopment