「国家資格なのに、なぜここまで安いのか?」

――作業療法士という専門職を支えるはずの医療保険・介護保険の仕組みが、じつは構造的な搾取を生み出しているのではないか。

この記事では、令和6(2024)年度診療報酬・介護報酬改定、令和6年賃金構造基本統計調査など最新の公的データを手がかりに、作業療法士(OT)のリハビリテーション点数と、その裏側で支払われている給与(特に時給)をできるだけ具体的な数字で追いかけます。

精神科作業療法(精神科リハビリテーション)、生活機能回復訓練、訪問リハ、老健・通所リハなど、様々なリハビリ形態を横断的に見ながら、

を、できるだけわかりやすく整理していきます。


作業療法士の売上と賃金──日本の医療職に埋め込まれた「搾取構造」を読む

TruResearch™


🧩 1. 「平均年収444万円」は本当に“悪くない水準”なのか?

💰 1-1. 公的統計が示す作業療法士の年収水準

複数の公的・準公的資料を総合すると、2023〜2025年時点での作業療法士の年収像は次のようになります。

国税庁の給与統計でみる日本人全体の平均給与は約460万円[1]。
この数字と比べれば、「OTだけ飛び抜けて極端に低い」とまでは言えません。

しかし問題は、

を考えたとき、この水準が本当に妥当かという点です。

さらに「平均値」には、

が一緒くたに混ざっています。
このばらつきの大きさこそ、搾取構造を理解するカギになります。


🗾 2. 地方と都市でこれだけ違う:都道府県別年収と実質時給

📉 2-1. 地域による年収格差

都道府県別調査によると、作業療法士の平均年収は最大で約140万円の地域差があります[PT-OT-ST転職コンシェルジュ][5]。

傾向としては[5]:

しかし、ここでも注意が必要です。

多くの都道府県では、「全職種の平均年収 > 作業療法士の年収」という構図で、OTはその地域の中では「高給職」ではない[5][1]

つまり、

という現実があります。

🧮 2-2. 地域の求人から見る実質時給イメージ

公開求人や賃金統計から、おおよその時給換算を考えてみます。

実際に、紹介サイト上にも

「月給18万円・賞与込でも年収300万円未満の求人が増えている」[Therapist Plus要約][0]

という記述が出てきます。
このクラスになると、専門学校卒の一般事務や工場勤務と同等か、それ以下の水準になり得ます。


⚙️ 3. リハビリテーション点数:OTが「いくらで売られている」のか

ここから本題です。
保険上の売上(診療報酬・介護報酬)と、OTの賃金の差をみます。

🏥 3-1. 医療保険(診療報酬)のリハビリ点数の基本構造

令和6年度診療報酬改定では、第7部リハビリテーションで、

などの疾患別リハビリテーション料が定義されています。

共通する重要なルールは[6]:

細かい点数は疾患別・施設基準別で異なりますが、
急性期・回復期病棟での個別リハ1単位(20分)あたりの点数は概ね

とイメージしておくと、大きくは外れません(施設基準によって上下します)。

つまり、

が病院に入る構造です。

🧮 3-2. 1時間のOTの「売上」と「時給」の差

仮に、ある回復期病院で

実際の勤務は

として、ざっくり計算します。

1か月20日勤務なら、

一方でOT本人の月給が26万円(年収約400万円)とすると、

もちろん、

などを考えれば、100%がOTのものになどなるはずがないのは確かです。

しかし、

というギャップは、やはり構造的に小さいとは言いがたいでしょう。

🧠 3-3. 精神科OT・生活機能回復訓練などのリハ形態

精神科リハビリテーションや生活機能回復訓練、集団療法では、1人あたりの点数は個別リハよりも低く設定されています。
ただし精神科OTの中心は集団リハで、

という特性があります。
このため 「OT1名あたりの時間収益」だけを見ると、急性期・回復期の個別リハより高くなるケースが実際にあります。

にもかかわらず、

という逆転現象が起こります。

これは、

「リハの点数はそれなりに付くのに、病棟全体の収支はギリギリ」
→ 経営としては非医師職の賃金を上げにくい

という構造が原因です。

精神科OTがどれだけ効率的に収益を生み出しても、
“科全体としての低収益構造”に飲み込まれ、給与には反映されにくい。
このねじれは、日本のリハ報酬体系が抱える典型的な課題のひとつです。


🏥 4. 介護保険側:老健・訪問・通所リハの点数と「処遇改善加算」

🧓 4-1. 介護リハの単価とOTの立場

介護保険分野では、

などのサービスに介護報酬が支払われます。

ここでは1単位=10円を基本に、

といった単価構造です(詳細はサービス種別・加算の有無で変動)。

収入源は

となりました。

📈 4-2. 2024〜2025年:処遇改善加算がOTにも広がる

近年、介護職の人材不足を受けて、

その結果、

介護保険分野(老健・訪問・デイケア)は、診療報酬に加え処遇改善加算を他職種にも柔軟に配分できるようになり、
訪問リハでは年収500万円以上の求人が一気に増えた[2]

という指摘があります[2]。

しかしここにも落とし穴があります。

⚖️ 4-3. 加算の「裁量配分」という新たな搾取リスク

処遇改善加算の最大の特徴は、

という点です。

Reha転職.com は、同じ地域・同じ仕事内容でも、

という極端な差が生まれている現状を指摘しています[2]。

つまり、

この「裁量」は、

の両方を意味します。


👥 5. 正職員 vs パートOT──平均値に隠れる「低賃金多数派」

🧑💼 5-1. 正職員OTの収入像

正社員OTについては、

また、

ただし、

しています。

👩🦰 5-2. パート・非常勤OTの実態

一方で、非常勤・パートOTについては、

フルタイム相当で週32時間×4週働いても、

OTとしての責任や専門性を考えると、
一般的なパート事務職とさほど変わらないか、それ以下のケースも珍しくありません。

しかも、

といった条件下に置かれています。

📉 5-3. 「平均年収409〜444万円」という数字のトリック

ここまでをまとめると、

が混ざった平均値として「約444万円」が語られていることになります[2][3][4]。

つまり、

「平均はそれほど低くないから問題ない」という議論は、
低賃金多数派と高給少数派の格差を覆い隠してしまう。

ここに、「統計上の平均値が現場の実感から乖離する」 理由があります。


🩺 6. 「医師以外は安くて当たり前」という日本の医療構造

⚖️ 6-1. 全医療従事者のベースアップ議論と限界

2024年度診療報酬改定では、

これを実現するために、

という設計がなされています。

しかしGemMedによると、

が示されています。

結局、

に集中しやすい構図になっています。

🧑⚕️ 6-2. 医師給与と他職種給与の“断絶”

ここで象徴的なのは、

賃金統計を見ても[1][4]、

という構図が一般的です。

もちろん、
責任の重さや拘束時間、訴訟リスクなどを考えれば
医師とその他職種を一概に同列比較はできません。

しかし、

という構造になっていることは否めません。

その下で、

結果として、

「医師以外は、多少ベースアップされても依然として“安いまま”」

という状態が続いているのが現実です。


🎓 7. 「学費」と「奨学金」と「低賃金」──個人に何が起きているか

💸 7-1. 作業療法士になるまでにかかる費用

多くの作業療法士養成校は、

国公立大に入れれば負担は小さくなりますが、
定員は限られ、多くは私学・専門学校となります。

その結果、

という生活が始まります。

🔄 7-2. 年収400万円台と奨学金返済のリアル

仮に、

とします。

ここから、

貯金や投資に回せるお金は数万円レベルになりがちです。

結婚・出産・子育て、あるいは自分の病気や親の介護といったライフイベントで
生活コストが増えれば、奨学金返済の負担は一気に重みを増します

すでに現場では、

「専門職として社会に求められる人材」が、
学費ローンの重さと低賃金で「生活が成り立たない」 というのは、
制度として明らかにゆがんでいます。


🧨 8. 社会的影響:誰が損をし、誰が得をしているのか

🧠 8-1. 医療・介護の質への影響

作業療法士の給与が抑え込まれることは、

具体的には:

国は一方で

を通じて「リハの質」を求めていますが、
その負担の多くが低賃金のリハ職の肩に乗っているのが現状です。

👤 8-2. 個人のキャリア形成・ライフプランへの制約

低賃金・高負荷・高学費ローンの三重苦は、

といった個人レベルの将来不安を増幅させます。

その結果、

ようになり、
優秀な若者がこの分野を志望しなくなるという、
長期的な人材危機を招きかねません。


🧱 9. 搾取構造はどこにあるのか?──事実から見える5つのポイント

ここまでの事実を整理すると、
作業療法士の搾取構造は、次のような層で重なっています。

  1. 公的価格(診療・介護報酬)と賃金のギャップ

    • OTの1時間あたり「売上」は6,000円前後
    • 本人の時給換算は1,200〜1,600円前後
    • 残りは医療機関の経費+収益+他職種人件費に吸収
  2. 医師偏重の報酬設計

    • 医師の高額年収を支える構造の中で、
      その他職種の賃金は長年抑え込まれている
  3. 賃上げ原資の“途中搾取”リスク

    • ベースアップ評価料・処遇改善加算など
      「賃上げ目的」の報酬引き上げが

      • 経営維持・設備投資に流用され
      • OTの実際の給与には十分反映されないケース[2][7][8]
  4. 統計上の平均値が低賃金多数派を隠す

    • 公務員・大病院・管理職の高収入が、
      パート・非常勤の年収200万円前後を薄めてしまう
  5. 高額な養成費用と低賃金のミスマッチ

    • 400〜600万円の養成費用
    • 平均年収430〜440万円・パートは200万円前後
    • 奨学金返済不能リスクがシステム内蔵されている

これらは全て、
制度と市場と組織の設計が生み出した「構造的な搾取」 と見ることができます。


🔭 10. それでもOTとして働き続けるために:構造を理解した上での選択

最後に、「ではどうすればいいのか」という点に少しだけ触れます。

🧭 10-1. 高収入ゾーンと低収入ゾーンを意識して選ぶ

データからみると、同じ免許でも収入レンジは大きく違うことがわかります[2][3][5][11]。

同じ「作業療法士」でも、
どこで、どの形態で働くかで年収が200〜500万円以上まで開く
という現実は、
搾取構造の「抜け道」でもあります。

🧠 10-2. 情報の非対称性を埋める

処遇改善加算の職種別配分や、
法人ごとの実際の昇給・賞与ルールは、

ここを埋めるには、

などを組み合わせて、
「どこに行けば“搾取”ではなく“正当評価”に近づけるか」を見極めることが重要になります。

🧑⚖️ 10-3. 「構造がおかしい」と声を上げ続ける

個人のキャリア選択に加えて、

も、長期的には不可欠です。

「作業療法士はやめとけ」という声をただの愚痴で終わらせるのか
それを起点に制度改革の議論につなげていくのかは、
現場と社会全体の選択でもあります。


📚 参考文献(Web)

TruResearch™

参考文献

[1] 作業療法士の年収は? 年収アップを目指す方法、将来性についても解説

[2] 【2025年最新】作業療法士(OT)の平均年収は444万円!給料が上がらない理由と年収UP転職の全戦略 | リハビリ転職.com

[3] 【2025年最新】作業療法士の平均年収は444万円!男女年齢別の相場や給料アップ術 | コメディカルドットコム

[4] 作業療法士の給料が安いのはなぜ?平均年収と収入アップのポイント | セラピストプラス

[5] 作業療法士の都道府県別の給料・年収ランキング | PT・OT・ST転職コンシェルジュ

[6] 第7部リハビリテーション | 令和6年 診療報酬改定情報 | PT-OT-ST.NET

[7] 令和6年度介護報酬改定について|厚生労働省

[8] 「看護職員など医療従事者全体の賃金を2024年度に2.5%、25年度に2.0%引き上げる」診療報酬対応の検討開始―入院・外来医療分科会 | GemMed

[9] 令和6年 診療報酬改定情報 | PT-OT-ST.NET

[10] 【2025年展望】医療保険とリハビリテーション診療報酬改定について解説!! – STROKE LAB 東京/大阪 自費リハビリ | 脳卒中/神経系

[11] 【病院・施設別】作業療法士の年収ランキング|高収入を得るには?💰 - 仕事マッチ